特集

2024.5.17

101年目の決意 ~今、私たちが目指す未来~

創立100周年という節目の年を経て、心機一転、新たな一歩を踏み出した東京工芸大学。
次の100年に向けて抱く思いについて、学長、工学部長、芸術学部長が鼎談しました。

学長 吉野 弘章 × 工学部長 陣内 浩 × 芸術学部長 大島 武

建学の精神を守りつつ 時代に合わせて変化し続ける

吉野学長に伺います。
東京工芸大学は、次の100年に向けて、どのように歩みを進めていこうとお考えでしょうか。

吉野学長(以下、吉野) 
 本学は今日まで100年にわたって、写真を原点とした「テクノロジー(技術)」と「アート(表現)」を融合した最先端の学びを提供してきました。その背景にあるのが先人たちの熱い思い=建学の精神です。
 写真機材商を営んでいた小西本店(現?コニカミノルタ)創業者の六代杉浦六右衞門は、「日本の写真技術の振興に寄与する人材を世に送り出し、国家の発展に貢献するためには、写真教育を行う専門の学校が必要である」という理想を提唱しました。先代の遺志を継承し、私財を投じて本学の前身である「小西寫眞専門学校」を創立した七代杉浦六右衞門は、「写真術は諸般の学術技芸その他一般文化の発達に不可欠である」「写真教育は、業界の発展のみならず社会全体の発展につながるであろう」と述べています。
 今に目を移せば、本学は、時代の流れに伴い提供する学びの内容を変化、拡大させながらも、「テクノロジーとアートが融合した教育?研究を、人と社会のために」という先人たちの思いをブレずに継承してきていると実感します。本学創立100周年に際し、学長として、また本学の卒業生として、本学が進むべき未来への道しるべを探すべく100年の歴史を振り返る作業を行いましたが、改めて、今掲げている「工芸融合」というキーワードに、確信を持つことができました。
 この先時代が変わっても、建学の精神を変わらず大切にしていくことで、本学のさらなる進歩発展は可能になる。そう考え、今、新たな一歩を踏み出し始めています。

陣内工学部長に伺います。
工学部長就任にあたっての思いと、2024年度から組織改変した工学部の特徴についてお聞かせください。

陣内工学部長(以下、陣内) 
 次の100年に向けた工学部の最初のステップをお任せいただき、光栄であると同時に身の引き締まる思いです。
 工学部は、1966年に本学のレガシーともいえる写真工学科と印刷工学科でスタートし、現在までに様々な組織改革を行ってきました。産業と深く関わりのある工学部は、産業側の要求や社会のニーズに合わせた人材を輩出していくことが基本的な使命であり、今回も、時代の流れに合わせた改変となっています。
 具体的には、3学系4コース体制で、情報学系に情報コース、工学系に機械コースと電気電子コース、建築学系に建築コースを設置しました。最近のニュースのキーワードで考えると、AIやデータサイエンスについては情報学系、半導体やロボット、ドローンなどについては工学系、衣食住の一角を担う建築については建築学系で学ぶことができます。また、本学の原点である画像についても、情報学系の中で学べるようになっています。さらに、入学後の興味や関心の広がり、変化に合わせ、コースをまたいで授業を受けたり、研究を選択できる点も特徴です。学生にとって、満足いく学びを得られる環境になっているのではないかと思っています。

大島芸術学部長に伺います。
新たな100年のスタートにあたり、芸術学部長としての思いと、芸術学部が目指す姿についてお聞かせください。

大島芸術学部長(以下、大島)
 今年度で芸術学部長の職務は4年目になります。そのような立ち位置で本学の歴史の節目に立ち会わせていただいていることを幸せに思いつつ、改めて、100年受け継がれているバトンを次につなげていくことの責任の重さを痛感しています。一方で、本質を守りながらも変化を恐れない「不易流行」の姿勢も大事であると感じています。
 芸術学部は、2024年で設置30年になります。写真、映像、デザインの3学科でスタートし、今では、インタラクティブメディア、アニメーション、ゲーム、マンガを加えた7つの学科を持つ、アートとテクノロジーを融合させた「メディア芸術」の総合学部とも言える組織になりました。
 今、世界中で、また日本においても、アートが経済や産業の主要なエンジンであるという考え方が広まりつつあります。世の中から求められているのは、アート思考やクリエイティビティを兼ね備えた若者です。そんな人材を育て、輩出していくために、これからも変化をいとわず、新しいことにどんどん挑戦していく芸術学部でありたいと、強く思っています。

100年来の工芸融合スピリットで社会で活躍できる人材を育成

先生方みなさんに伺います。
今、東京工芸大学は、社会で活躍する人材を育成する立場として、どのような役割を果たしていきたいとお考えですか。また、学生には、どんな社会人になってほしいと思われますか。

吉野 本学は、工学部においても芸術学部においても、それぞれに専門性の高い教育を提供しています。また、その根幹に工芸融合のスピリットがあり、実際に学びを得られるところも特徴です。そうした環境下で、将来の武器となる一つの分野を徹底的に掘り下げ、極めていくことができる。その中で、大学で身につけるべき3要素と言われる「知識?技能?態度」を身につけることができる。本学は、「ジェネラルな課題解決能力を持ったスペシャリスト」の育成が可能な教育機関ではないかと思っています。

陣内 近年、工学部の学生の間に、工芸融合への意識が高まっていると感じます。1年生の科目として写真演習とデザイン演習を設けており、最低どちらか1つを選択することになっていますが、3/4くらいの学生が両方の科目を選択しています。
 工学部は技術者を育成する場ですが、芸術的な表現力や描写力が根にある人材は、純粋に工学だけを学んだ人材とは違う発想で、技術の発展に貢献してくれる可能性があると思います。これからも、芸術学部がある本学ならではの技術者、エンジニアを育成していきたいと考えています。

大島 我々、芸術学部の使命は、学生一人一人に、しっかりと技術を身につけさせることだと考えています。技能を高めるという意味で、AIやデータサイエンス、建築系の授業など、工と芸がクロスオーバーする学びの機会提供も大切にしています。なぜなら、アートの世界は資格などではかることができないからです。卒業生たちも、社会で活躍するために大切なのは何よりスキルだと、口を揃えて話しています。
 また同時に、現代社会のニーズに合わせて育みたいのが粘り強さです。新規大卒就職者の入社後3年以内の離職率が30%にのぼっている近年、企業は、継続力やストレス耐性のある人材を求めています。その点、芸術学部の学生は、仲間と共同で作品制作を行ったり、周りからの講評を受けて何度もアイデアを練り直したり作品を作り直す経験を積み重ねますので、そうした体験を通じて、社会で役立つ忍耐力を身につけてもらえるといいなと思っています。

陣内 私も企業の方とお会いする中で同様のお話をよく聞きます。加えてもう一つ、何事にも興味を持って、積極的に取り組める人材も求められています。本学の学生には、工芸融合の学びの環境を存分に活用してもらいたいですし、社会に出てからも、隣の人がやっていることに興味を持てる人になってほしいです。

大島 芸術学部の学生について言えば、学生時代に自分以外の人の表現に数多く触れることで感性を磨き、相手を思いやったり、想像力を働かせられる人になってほしいと思います。

吉野 我々のこうした思いを広く発信していくために、私が担うべき役割は、全員が「工芸融合」という校風をつくりあげること。工学部、芸術学部にかかわらず「文武両道」のように、学生、教職員一人一人が「工芸融合」の素要を持つこと、それが100年の歴史を誇る本学の唯一無二の強みになると思います。

※所属?職名等は取材時のものです。